エストロゲンは
女性のカラダの“守り神”「人生100年時代」健康寿命延伸のカギ

「人生100年時代」といわれる現代。
「平均寿命と健康寿命のギャップ」のように、健康に関する新しい課題も生まれています。
とりわけ平均寿命の長い女性たちは、自身の健康とどのように向き合えば良いのでしょうか。
女性の健康に詳しい、大阪大学の木村正教授に伺いました。

木村 正教授

大阪大学大学院医学系研究科
産科学婦人科学講座

昭和60年大阪大学医学部医学科卒業。
周産期・生殖・女性ヘルスケア・婦人科腫瘍の
診療・研究・教育に従事し、
同大学医学部附属病院長などを歴任。
現在は日本産科婦人科学会理事長も務める。

全身様々不調
「エストロゲン」が関与

木村

女性の健康に大きな影響を及ぼす「エストロゲン」。
卵巣でつくられる女性ホルモンの一つで、子どもを産み育てる上で重要な役割を果たしています。また、骨や肌、血管などに対する多彩な働きも持っています。しかしエストロゲンは、40歳を過ぎた頃から徐々に減少してしまいます。エストロゲンが減少すると、心身に様々な変化や不調が生じます。
例えば「ホットフラッシュ」と呼ばれるのぼせやほてりが起こりやすくなったり、肌のシワが増えたり、髪のハリが失われてしまったり…。気分が沈みがちになったり、肩こりに悩まされる方もいれば、性欲が減退したり、性器の潤いがなくなって「性交渉が痛い、つらい」と訴える方もいます。
また、骨量の減少や動脈硬化なども生じやすくなります。これらはその後の長い人生に深刻な影響を及ぼしかねません。


もちろん、こうしたトラブルの原因がすべてエストロゲンの減少によるものではありません。
加齢による機能の低下もありますし、別の疾患が影響している可能性も否定できません。
重大な異常を見逃さないためにも、まずはきちんと婦人科を受診することが大切です。

頼れる
「かかりつけ婦人科医」を

がん検診が
「出会い」の機会に

木村

女性特有の様々な不調に対処するには、個別の症状だけでなく、全身をトータルで診ることが重要です。
そこで女性の皆さんにはぜひ「婦人科のかかりつけ医」を持っていただきたいと思います。女性が一定の年齢になると、自治体から子宮頸がんの「検診無料クーポン券」が配布されますよね。それを利用して検診を受ける際などは、自分に合った婦人科医を探すよい機会になるでしょう。
婦人科で行う治療の代表的なものに、減ってしまったエストロゲンを補う「ホルモン補充療法(HRT)」があります。また、症状の出方に応じて、骨量を増やす薬や抗うつ剤・抗不安薬、漢方薬などを用いることもあります。
いずれの治療も、全身の症状を総合的に診断することが大切です。医師と相談しながら、自分に合った治療法を見つけましょう。

女性ホルモン(エストロゲン)の変化

右にスクロールしてご覧ください。

女性ホルモンが減ると
骨や関節が弱まり
生活習慣病にも!?
エストロゲンの減少は、骨粗しょう症など、骨や関節の弱体化につながるうえ、
血圧やコレステロールを上昇させ、生活習慣病リスクを高める。
効果の確認された
注目成分エクオール

大豆由来の成分
「エクオール」とは

木村

医療機関での治療以外に、自分で行えるケアとして「エクオールの摂取」という方法もあります。
エクオールは大豆イソフラボンを腸内細菌が変換することでつくられる成分で、エストロゲンによく似た働きを持っています。
更年期の女性を対象とする試験では、毎日10mgのエクオールを12週間摂り続けることで、ホットフラッシュや首や肩の凝り、顔のシワの面積が改善されたという報告があります。
木村

しかし残念ながら、誰もが体内でエクオールをつくり出せるわけではありません。腸内にエクオールをつくる菌を持っている人の割合は、日本人で約5割、欧米人ではは約3割に過ぎないのです。しかも若い女性の場合、食生活の変化などの影響もあり、その割合がさらに低くなっています。
自分が腸内でエクオールをつくれるかどうかは、市販の検査キットで調べることができます。
エクオールをつくれない人や「大豆を食べ続けることが大変」と感じる人は、サプリメントの活用を検討してみるとよいでしょう。
エクオールについては、より長期間にわたって摂り続けることで得られる効果や、若年女性に対する可能性など、さらに解明すべきテーマがあります。私としては、今後明らかにされる研究結果にも期待したいと考えています。

気になる方は
早めに相談を

木村

いま日本人女性の平均寿命は90歳近くまで延びています。これほど長い時間を健やかに全うするには、若い頃からバランスのよい食事や適度な運動、規則正しい生活を心がけ、体の異変にいち早く気付いて対処することが欠かせません。
しかし私は昨今、女性たちの健康に関して、いくつか心配に感じていることがあります。
その一つは、貧血に悩む方の増加です。貧血の原因の一つとなるのが、無理なダイエットです。
過剰な食事制限による栄養不足は貧血だけでなく、骨量の減少など将来的なQOL(生活の質)の低下にもつながりかねません。
また「若い時から月経の量が多い、月経が不規則、不正出血などを放置している人が多い」という問題もあります。月経不順や不正出血が、重大な疾患のサインである場合もあります。
こうした日常的な健康の問題ときちんと向き合うためにも、かかりつけ婦人科医の存在が助けになるはずです。せっかくの長い人生を存分に楽しめるよう、気になることがあればためらわず、気軽に相談されることをおすすめします。