毛髪の衰え背景にエストロゲン低下

40代以降、女性の心身には様々な問題が生じやすくなるが、実は薄毛もその一つ。
容姿はもちろん、精神状態にも大きな影響を及ぼしかねない“髪トラブル”、その原因や対処法とは?
産婦人科と皮膚科をそれぞれ専門とする、二人の医師に話を伺いました。

専門医スペシャル対談

髙松 潔 先生

東京歯科大学市川総合病院
産婦人科教授

植木 理恵 先生

順天堂大学医学部付属
順天堂東京江東高齢者医療センター
皮膚科科長・教授

「容姿の変化」が
QOLを左右する

ー40代以降の女性に生じる変化とは?

髙松
閉経前後の10年間を更年期といいますが、この時期には女性ホルモンと呼ばれる「エストロゲン」のレベルが急激に低下していきます。エストロゲンは子宮や乳腺など生殖に関わる器官はもちろん、脳や血管、骨など全身の健康にも深く関わっているので、低下に伴って様々な問題が生じてくるわけです。更年期の症状としては、のぼせ・ほてり・発汗といった「ホットフラッシュ」がよく知られていますが、それ以外にも手指の痛みや骨密度の低下など、実に300以上にも及ぶ心身の不調が引き起こされるといわれます。
植木
美容の面では「シミ・シワ・白髪・薄毛」という4つの問題が生じやすくなります。これらは加齢に起因するもので、同時にエストロゲンレベルの低下とも関係があると考えられます。
髙松
美容というのは一昔前まで、健康に比べて軽視されがちでした。しかし容姿は本人の精神状態やQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼします。「心身相関」という言葉の通り、心の状態が良いことは体にも良いし、逆もまた然りですよね。
植木
 「人生100年時代」を迎えようとしているいま、若々しく美しい容姿は健康の証しでもあります。近年は「いつまでも美しくありたい」と考える人が増えているようですが、そうした要望にどう向き合えるのか、これは医療者にとって大きな課題といえるでしょう。

「密度と太さ」の
カギが明らかに

ー薄毛の原因や対処法を教えてください。

植木
薄毛にもいくつかのタイプがありますが、更年期に伴って起きるものを「びまん性脱毛症」といいます。髪が細い・本数が少ない・伸びるのが遅いという3つの症状が複合して起きるもので「女性型脱毛症」といわれることも。原因としては「男性ホルモンの影響」「加齢」「休止期脱毛(ヘアサイクルの乱れ)」などが挙げられ、すべてが重なって起きる場合もあります。
髙松
植木先生は、体内でエクオールをつくる能力とびまん性脱毛症との関係に関する研究に参加しておられますね。

※閉経後女性における毛髪とエクオール産生能の関係に関する観察研究

植木
はい、閉経後の女性たちを対象に髪の成長具合を調べたところ、「エクオールを産生する能力の高い人は年齢を重ねても髪の密度が低下しにくい」「エクオールを産生する能力の低いグループでは、閉経からの期間が経過した人ほど髪の密度が低く、細い毛の割合が高い」といったことが明らかになりました。この結果は、エクオールがびまん性脱毛症の進行を防ぐ可能性を示唆しているといえます。
髙松
私の患者さんである更年期の女性たちにも「サプリメントを活用している」という方は多いのですが、詳しく聞いてみると、製品を用いた試験で効果が確認されていないものを利用されているケースも少なくないようです。エクオールを含むサプリメントは複数販売されていますが、製法やデータなどが信頼できるかどうか、よく確認していただきたいものです。
植木
セルフケアについて相談する相手としても、女性の皆さんは「かかりつけ医」を持たれるとよいのではないでしょうか。
髙松
更年期に関わる不調は個別の症状に対処するだけでなく、トータルでケアすることが重要ですので、何でも気軽に相談できる専門家が身近にいるといいですね。
健やかな髪のために
心がけたい生活改善

薄毛を予防・改善するためには、生活習慣の改善が欠かせません。中でも大切なのは睡眠で「一定の時間に就寝・起床すること」「毎日6時間以上眠ること」を目指しましょう。食事については多彩な栄養素をバランスよく摂る必要がありますが、女性は年齢を重ねるにつれて“髪の材料”となるたんぱく質の摂取量が不足していきがちです。赤身の肉や大豆製品などを意識して摂るよう心がけてください。
「頭皮が汚れているとよくない」と考えて毎日ゴシゴシと髪を洗う人がいますが、更年期以降は皮脂の分泌が少なくなることもあり、洗いすぎは頭皮を傷つけたり、乾燥させる原因に。特に冬は洗髪を1日おきにするなど、洗いすぎないよう工夫しましょう。

喫煙は髪に良くない習慣の代表格です。頭皮の細胞は活発に活動するので、血液からたくさんの栄養を取り込む必要がありますが、喫煙は血行を悪くします。血管を収縮させる作用のあるカフェインも同様の理由で髪によくないため、夕方以降の摂取は控えてください。

髪の毛は生命に関わるものでないだけに、健康状態の悪化や栄養の不足が生じると、私たちの体は「髪の毛を捨てて生命を守ろう」とし、その結果として脱毛や白髪が起きます。つまり髪の健康を守るには、まず体の健康を守らなければならないのです。

大豆由来の成分
「エクオール」に注目

更年期に急激にレベルが低下するエストロゲンを補うものとして、いま「エクオール」という成分が注目されています。大豆イソフラボンの一種であるダイゼインが腸内細菌によって代謝することで産生されるエクオールには「エストロゲンによく似た働きをする」という特長があるのです。更年期以降の女性を対象とした研究では「エクオールを毎日10㎎摂ることでシワの面積が改善された」という結果も出ています。

ただ腸内でエクオールをつくり出せるのは日本人で約5割、欧米人だと3割ほどに過ぎません。自分がエクオールを産生できるかどうかは、専用のキットを使った検査で確かめることができます。産生できない人や、毎日十分な量の大豆を食べることが大変だと感じる人は、エクオールを含むサプリメントの活用を検討されるとよいでしょう。