40代からの手指不調
原因、そして対策

女性の心身には40代以降、様々な変化が表れやすくなりますが、
その一つに「手指の不調」が挙げられます。
さて、その変化の背景、そして対処法は?
手指の不調を経験しているCさんが、
手外科の専門家である平田仁先生に相談しました。

手外科の専門医に
相談してみよう

平田 仁 先生

名古屋大学大学院医学系研究 特任教授
三重大学医学部卒業。名古屋大学医学部附属病院手の外科科長、
同大学予防早期医療創成センター教授等を歴任し、2022年4月より現職。
日本マイクロサージャリー学会理事。日本手外科学会元理事長。

相談者Cさん(44歳)

主婦・パートタイマー。
家族は夫と長女(高校生)、次女(中学生)、長男(小学生)。
趣味はランニング、ソフトボール等。

考えられる原因は?

親指の付け根に
「痛み」と
「引っかかり」が

Cさん
2年ほど前、左手の親指の付け根に「痛み」と「引っかかり」が。
いまは治まっていますが…考えられる原因は?
先生
「変形性関節症」の一種である「母指CM関節症」の可能性があります。
手指の関節に痛みや腫れ、変形が生じる疾患を「変形性関節症」といいます。Cさんは「親指の痛みによりフライパンを持ったり、ドアノブをひねったりするのが難しかった」とのことですが、これは変形性関節症の一種である母指CM関節症でよく見られる症状です。また、表面的には治まっていても、実は関節の軟骨がすり減ったり、それに反応して骨が余分に形成されたりするなど、病状が進行している恐れがあります。放置すると関節に亜脱臼や膨らみが生じ、親指が動かしにくくなることも。

手指に生じやすい
不調は?

Cさん
手指に生じやすい不調にはどのようなものがありますか?
先生
よく見られる手指の不調として「変形性関節症」と「腱鞘炎」が挙げられます。
変形性関節症には、症状が親指の付け根あたりに出る母指CM関節症の他に、人差し指から小指までの第1関節に出る「へバーデン結節」と第2関節に出る「ブシャール結節」があります。
また、指の手のひら側にある(屈筋)腱と、腱をトンネルのように取り囲んでいる腱鞘に炎症が起きる疾患を「腱鞘炎」といいます。腱が腫れ、腱鞘も厚くなるため、腱が腱鞘の中をスムーズに通過できなくなり、痛みやこわばりが生じます。進行すると指の動きが「カクン、カクン」となる「ばね指」と呼ばれる状態になることもあります。
エストロゲンが低下していく更年期

女性ホルモンの急激な
低下が原因の可能性も

Cさん
手指の不調はなぜ40代以降の女性に起きやすいのですか?
先生
近年の研究により、女性ホルモン「エストロゲン」の低下の影響が示唆されています。
卵巣から分泌される女性ホルモンの一つ「エストロゲン」には、生殖を支える以外にも、全身の健康に関わる様々な働きがあります。そのため、閉経が近づいてエストロゲンが低下していく更年期には、女性の心身に様々な不調が起こりやすくなるのです。まだはっきりと実証されたわけではないのですが、近年の臨床研究などにより、手指の不調にもエストロゲンの低下が影響していることが示唆されています。

専門医の受診や
日常のケア

Cさん
受診のタイミング、そして受診すべき診療科は?
先生
痛みや生活上の支障が生じたら、整形外科などを受診してください。
関節に炎症が生じて腫れや痛みがある場合は、放置しておくと軟骨や骨の破壊が進行する可能性が高いため、早めの受診をお勧めします。血液検査などで他の病気でないことを確かめる必要がありますが、おそらくCさんもこのケースに該当するでしょう。
まずは整形外科、あるいはリウマチ科を受診し、より専門性の高い治療が必要と診断されたら、手外科の専門医を受診されることをお勧めします。
Cさん
病院ではどんな治療が受けられますか?
先生
保存療法から手術まで、進行の程度に応じた多彩な治療法があります。
手指の不調の治療には、生活習慣の改善や装具・テーピングなどを使用する保存療法、消炎鎮痛剤などを用いる薬物療法、それに手術療法まで、多彩な治療法があります。

「エクオール」の活用も

Cさん
自分で取り組める対処法はありますか?
先生
「エクオール」の活用も一つの方法です。
セルフケアの方法としてまずお勧めしたいのは、手指そのものと、手指を動かしている腕のストレッチです。また、手指の不調の背景にエストロゲンの低下があると考えた場合、医療機関等で取り扱っている「エクオール」を含むサプリメントを活用するという手もあるでしょう。エクオールは大豆に含まれるイソフラボンが腸内細菌に代謝されて産生される成分で、エストロゲンに似た働きを持つと考えられています。
Cさん
子どもにも遺伝するでしょうか?
先生
将来、お嬢さんの手指に不調が生じるリスクは高いといえます。
手指の変形性関節症には、遺伝的要因が強く影響するといわれます。Cさんのお嬢さんはまだ10代とお若いですが、あらかじめリスクを認識していれば、より早期に適切な対処をしやすいでしょう。ぜひお母さんの経験を伝えてあげてください。