更年期以降の女性に多い“手指の不調”
気を付けたい
「メノポハンド」とは

更年期を迎えた女性の中には、近年注目されている
「メノポハンド(menopausal handメノポーザル ハンドの略)」と呼ばれる
手指の不調を訴える人が多いそうですが、さてその原因、そして対処法は?
日本手外科学会理事長・酒井昭典先生と、手外科専門医・平瀬雄一先生に聞きました。

手外科専門医
オンラインインタビュー

酒井 昭典医師

日本手外科学会理事長
産業医科大学 整形外科学教授

産業医科大学卒業。専門分野は手外科、四肢外傷、骨粗鬆症、変形性関節症、労働災害。日本骨形態計測学会理事長、日本整形外科学会代議員、日本末梢神経学会理事等の役職も務めている。日本手外科学会専門医。

平瀬 雄一医師

四谷メディカルキューブ
手の外科・マイクロサージャリーセンター センター長

東京慈恵会医科大学卒業。米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学後、東京慈恵会医大柏病院形成外科医長、埼玉成恵会病院形成外科部長などを歴任し、2010年より現職。日本手外科学会専門医。

メノポハンドとは
どういうものですか?

平瀬
閉経(メノポーズ)の前後5年ずつを合わせた10年間を「更年期」といいます。閉経を50歳で迎えた方の場合は45〜55歳となりますが、タイミングにはかなり個人差があります。この40代・50代の時期、女性の心身には更年期症状という様々な不調が起こりやすくなるということがよく知られていて、その一つに手指の不調があります。我々はかねてより、手指のこわばりや関節の痛みなど初期の不調を「更年期手」と呼んでいました。これについて2022年に日本手外科学会が「メノポハンド」と命名し、早めの治療を呼びかける啓発活動を行ってきました。

メノポハンドが
生活に及ぼす影響は?

酒井
手指というのは、顔を洗う、歯を磨く、食事を作る、食べる、自転車や車に乗る、仕事をする…と、朝目覚めてから眠るまでのほぼ全ての活動に使うものですから、不調が生じるとQOL(生活の質)の低下に直結します。メノポハンドは検査をしてもまだ原因が特定できない不定愁訴の状態であるケースも多いのですが、放置すると悪化していく可能性が高いので、自覚されたら整形外科・形成外科等の医療機関を受診してください。より精度の高い診断・治療を希望される場合は手外科専門医を受診されるとよいでしょう。

メノポハンドが進行すると、どうなりますか?

平瀬
3〜10年後には手指の疾患につながる可能性が高いです。代表的な疾患としては、小指以外の指がしびれる「手根管症候群」、指が「カクン、カクン」と引っかかるばね指等を引き起こす「腱鞘炎」、指の関節が変形する「変形性関節症」などが挙げられます。

手指の疾患は
なぜ生じるのですか?

平瀬
近年、手指の疾患につながる要因の一つと考えられているのが、卵巣で作られる女性ホルモン「エストロゲン」の影響です。エストロゲンは妊娠・出産・授乳など生殖に関わる機能を支える一方で、骨代謝のバランスを保ったり、脂質代謝を調節してコレステロールの増加を抑制するなど、全身の健康に関与しています。そうした役割の一つとして、関節や腱の周りにある滑膜を保護する作用があります。しかし、更年期にはエストロゲンが減少し、滑膜への保護作用が低下します。滑膜が腫れると関節炎が生じたり、神経が圧迫されることによるしびれが起こりやすくなります。

もちろん、手指の疾患には、エストロゲンの低下以外の様々な因子も関係していると考えられます。また、手指の疾患は女性にだけ起こるわけではありません。変形性関節症に関する調査では、実はそれほど男女差がないことが分かっています。

手指の疾患への対処法は?

平瀬
進行して疾患となれば、医療機関では装具やテーピング、消炎鎮痛剤などで痛みを緩和する保存療法から外科的な手術療法まで、症状に応じた様々な治療を行います。

セルフケアとして
できることはありますか?

酒井
血行をよくすることが大切なので、全身運動は有効だと考えられますし、ストレッチなどで手指を動かすのもおすすめです。また、入浴や温かいタオルを活用して手を温めると、痛みの軽減が期待できます。一方、喫煙は手指の血行を阻害することになるので、喫煙されている方は禁煙することも重要です。
平瀬
起きた時に手を振ったり、温めたりするのも有効です。エストロゲンに似た作用を持つ「エクオール」を活用するのもよいでしょう。

手指の不調をいち早く
察知する方法は?

酒井
手指の変形性関節症は遺伝性疾患ではありませんが、家族歴のある方が罹患しやすいということが知られています。お母様やお祖母様の手に変形などが見られる場合、ご自身も将来メノポハンドや手指の疾患を発症する可能性が高いといえますので、気になることがあれば早めに受診されるとよいでしょう。また、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病は腱鞘炎や手根管症候群のリスク因子になるといわれます。生活習慣病をお持ちの方は手指の異変に対して、より一層注意していただきたいと思います。
平瀬
妊娠授乳期に手の痛みを経験する女性がいますが、これはエストロゲンの低下が一つの要因と考えられます。そうした経験のある方は、更年期以降に同じ症状が出る可能性が高いと考えてもよいでしょう。

手指の不調が出始めたら?

酒井
一人で悩んだり、諦めたりすることなく、まずは医療機関にご相談ください。早期に適切な対処をすることで、人生100年時代を健やかな手指とともに過ごしていただきたいと思います。

大豆由来の成分
「エクオール」に注目

エクオールは大豆イソフラボンの一種であるダイゼインが腸内細菌によって代謝されて産生される成分で「エストロゲンによく似た働きをする」という特長があります。
手指の不調を抱える人にエクオール10mgを含むサプリメントを毎日摂取してもらったところ、「3か月後には6割近くの人に機能や痛みの改善が見られた」という報告があります。ただ腸内でエクオールを作り出せるのは、日本人では約5割ほどです。ご自身がエクオールを産生できるかどうかは市販のキットで検査ができますが、結果に関わらず、エクオールを活用するのも対策の一つです。

出典:日女性医学誌 2018;25:307‐311より改変
提供:四谷メディカルキューブ
手の外科・マイクロサージャリーセンター

初回掲載時期:2025年2月12日