女性の健康週間2026 記念対談

体を動かすことで、
女性の人生はもっと輝く

高尾先生・林先生
今年も「女性の健康週間」(毎年3月1日から8日まで)を迎えました。
女性の体は思春期から性成熟期、更年期、更年期以降と、
ライフステージごとに大きく変化し、それに伴って現れる健康課題もさまざまです。
こうした変化と向き合う上で、食事・睡眠とともに、
日々の生活の中で無理なく取り入れられる「運動」は
心と体の土台を支える大切な要素の一つといわれています。
運動が、実際にはどのように役立つのでしょうか。
産婦人科専門医・高尾美穂先生と、
運動生理学を専門とする國學院大学教授・林貢一郎先生が、
女性の一生と運動の関係について意見を交わしました。

専門医スペシャル対談

高尾 美穂 先生

産婦人科専門医・医学博士・
婦人科スポーツドクター
女性のための統合ヘルスクリニック
「イーク表参道」 副院長

林 貢一郎 先生

國學院大学 人間開発学部
健康体育学科教授

運動習慣を持つ女性は
意外なほど少ない!

高尾
女性の体って思春期から性成熟期、更年期、更年期以降とライフステージごとに本当に大きく変わりますよね。それに伴って、体調や悩みも全然違う。本当は「これさえやればいい」という正解はなくて、その時期ごとに体との付き合い方を考える必要があるんだと思います。
運動の分野でも同じで、「運動は健康にいい」と言われますが、誰にでも同じ形が当てはまるわけではありません。ただ現実として、日本の女性で運動習慣がある人はとても少ない。学術的な定義、つまり「週2回以上、30分程度の運動を1年以上続けている」という基準で見ると、20代・30代・40代の女性では1割台半ば、健康意識の高まる50代・60代で20%代後半です。
高尾
日頃女性の患者さんと接している私の体感でも、そのくらいだと思いますね。若い頃は部活などで体を動かしていた人も、社会に出ると一気に忙しくなって、運動が後回しになる。しかも「健康のために運動しましょう」という言葉自体が、もう耳に入らなくなっている感じもあります(苦笑)。女性の体がライフステージごとに変わっていく背景には、女性ホルモン「エストロゲン」の影響があります。若い頃はあまり意識することがなくても、年齢とともに体調の変化として現れてくる。その変化にどう向き合うかを考えるうえで、運動は一つのヒントになると感じています。
若い世代ほど「健康のために運動する」という意識は低い傾向があります。中高生の頃は二極化していて、やる人はやりすぎるほどやるし、やらない人は全くやらない。部活を卒業した後に、生活の中でどう体を動かすか、という視点が抜け落ちやすいんです。
高尾
でも、実はその頃から「月経前の不調が軽くなる」とか「気分がスッキリする」とか、運動の恩恵ってすでに感じられてるはずなんですよね。医学的に見ると、こうした変化は気のせいではありません。ホルモンの変動は血流や自律神経、炎症反応とも深く関係していて、運動はそれらをまとめて整える数少ない手段の一つです。だから「少し体を動かしただけで楽になる」と感じる方がいるんですね。そうした恩恵に気づく前に、忙しさに流されてしまうのがもったいないなと思います。

「ちょこっと運動」で
心も体も変わっていく

高尾
私はよく「運動は1日5分でもいい」と話すんです。これは妥協ではなくて、現実的な提案なんです。運動を「ちゃんとやろう」と思うほど、ハードルが上がってしまいます。でも、5分ならできるかもしれない。
運動は強さと時間の掛け算なので、必ずしも長時間である必要はありません。少し息が切れる程度の運動を1日5分、週に数回でも、体力が10〜20%と向上するという研究もあります。特に、これまであまり運動してこなかった人は、伸びしろが大きいですよね。
高尾
運動を続けられないと「続けられなかった」という自己否定になりがちですよね。でも「やめた」じゃなくて「今は休んでいる」と考えて、また再開すればいい。そういう柔らかい捉え方ができると、ずいぶん楽になります。
真面目な人ほど完璧を目指してしまって、続かなくなることがありますからね。スモールステップでいい、生活の中で体を動かす時間を少し増やす。それだけでも十分意味があります。
高尾
女性の場合、運動を通して「ちょっとできた」「少し変わった」という感覚が、自信につながるケースも多いですね。若い頃に体型や見た目に自信があった人ほど、年齢を重ねる中で、自信を失っていったりもします。そんな人も、体を動かすことで「自分で自分を変えられる」という感覚を取り戻せるはずです。

エストロゲンの働きを
運動でカバーできる?

運動習慣がある人は生活習慣病や循環器疾患、がんのリスクが低いことが多くの研究で示されています。特に女性では乳がんや大腸がんのリスク低下が比較的はっきりしていますし、骨粗しょう症の予防という点でも効果があります。
高尾
婦人科の現場でも、運動習慣がある人の方が、年齢を重ねたときの変化が緩やかだと感じることは多いですね。数字として示されている研究結果と、日常診療の実感が重なる部分だと思います。
有酸素運動の効果を見ていくと、血管機能の改善や善玉コレステロールの増加、骨への刺激などが確認されています。これらは結果として、エストロゲンが担ってきた役割と非常によく似ています。メカニズムは違いますが、「結果が近い」というのが研究から見えてきていることです。
高尾
なるほど。自力でエストロゲンそのものを増やすことはできませんが、運動によって「エストロゲンがしてくれていた働き」を補えると考えると、婦人科医の立場からするととても心強いですね。「自分で整えていく方法がある」と知ることは、多くの女性にとって安心感につながると思います。
さらに、こうした血管や脂質、骨への効果を薬で得ようとすると、それぞれに対して複数の薬が必要になるケースも少なくありません。その点、運動は一つの行動で多方面に作用します。そういう意味では、非常に“コスパ”のいい健康行動だといえます。
高尾
エストロゲンは、血管や骨、脳など、全身を守ってくれる本当にありがたいホルモンです。運動でその役割の一部でもカバーできる可能性があるというのは、年齢を重ねていく女性にとって、大きな希望になると思います。

「運動×エクオール」の
可能性

私たちは、エストロゲンに似た働きを持つ「エクオール」に注目し研究を行ってきました。研究では、運動にエクオールを組み合わせることで、動脈硬化の指標や血管機能の改善効果が、運動単独の場合より大きくなることが示されました。骨密度についても、同様の傾向が見られています。
高尾
エクオールは、大豆イソフラボンの一種であるダイゼインが腸内細菌によって代謝され産生される成分で「エストロゲンに似た働きをする」という特長があります。エストロゲンの分泌が低下していく時期に、その働きを補う成分として注目されていますよね。ホルモン補充療法等とは違い、食品として取り入れられる点も含めて、セルフケアの選択肢の一つとして考えやすいと思います。
運動だけでも効果はありますが、エクオールも加えることで、その効果が底上げされる可能性があります。

運動との向き合いかた

高尾
運動が続かない理由の一つは、「楽しくない」ことだと思うんです。学校時代の体育の嫌な思い出がある人も多い。でもその思い出は、ある程度の年齢になったら、もう箱にしまっていいでしょう。走ることがつらい印象があるなら、フラダンスでも、キックボクシングでも、散歩でも、ラジオ体操でもいいんです。体を動かして気持ちいい、楽しいと感じることが大事。
人とつながりながら体を動かすのも一つの方法ですね。大人の運動習慣はサークルや地域の集まりなど、場や役割、人間関係がきっかけで出来ていくこともあります。
高尾
体との付き合い方は、何歳からでも変えられますからね。今日できなくても、明後日できればいい。運動を「人生を楽しむための手段」として、無理なく続けてもらえたらいいなと思います。

初回掲載時期:2026年3月6日